こんにちは。慶應義塾大学漢方医学センター非常勤講師、あらなみクリニック院長の荒浪暁彦です。本日は、薄毛になる人とならない人の違いと、その原因である男性ホルモンの働きについて、AGAと円形脱毛症の違いを交えながらご紹介したいと思います。
もくじ
AGAの薄毛の原因は男性ホルモンから変化したDHTという抜け毛促進物質
サザエさんの波平さんのようなタイプがAGAです。側頭部はなかなかハゲないというのが特徴です。AGAはアンドロジェニック(男性型)アロペチア(脱毛症)の略語です。5αリダクターゼという物質が男性ホルモンをDHTという抜け毛促進物質に変化させ抜けます。
男性ホルモンが多ければ薄毛になるのではない
よく間違われるのが、男性ホルモンが多い=薄毛になると思われている方が多いのですが、実は、男性ホルモンだけが多くても5αリダクターゼが少なければ薄毛になりません。ヒゲや体毛が濃くて男性ホルモンが多そうな方でも髪がフサフサなのはこのタイプです。
5αリダクターゼが多く、かつ男性ホルモンが多い方にAGAは発症しやすいと言えるでしょう。
つまり、逆に言うと、男性ホルモンが少なくても薄毛になる場合があります。いかにも女性らしくて男性ホルモンが少なそうでも5αリダクターゼが多ければDHTが沢山できて、実は薄毛になってしまいます。
AGAは女性でも起こり得る
おばあちゃんの顔を良く見るとヒゲがはえている事が多いです。女性も歳をとるとヒゲや体毛が濃くなってきます。実は女性も男性ホルモンを分泌していて、歳をとり、女性ホルモンが減ってくると男性ホルモンの力が強くなり、男性ホルモンの影響が出てくるからなんです。
そのため5αリダクターゼの多い女性は、年を経て男性ホルモンの影響が強くなってくると、薄毛になってしまいます。これをFAGA、フェメイル(女性の)アンドロジェニック(男性型)アロペチア(脱毛症)と言います。
なぜ女性なのに男性型脱毛症?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、男性ホルモンの影響による脱毛現象だからです。
薄毛の要因の違いは?AGAと円形脱毛症の違い
一般的に薄毛になる大きな要因として、AGAと円形脱毛症の2種類が挙げられます。AGAは男性ホルモンと5αリダクターゼの影響で抜け毛が生じるのに対し、円形脱毛症は血液中のリンパ球が毛根を攻撃してしまう事により生じます。
いわゆる免疫機能異常によるのですが、ストレス等で生じるといわれています。だから円形脱毛症の方が急激です。瞬く間に全部の髪が抜けてしまう場合もあります。
治りやすいのは円形脱毛症
円形脱毛症は文字通り円形のハゲが生じ、それが多発したり全頭に及んだりしてしまう事がありますが、一時的にストレス等で免疫機能が崩れ、リンパ球が暴れて生じますから、免疫機能が正常に戻れば治ります。その為、体質的に脱毛が進行していくAGAやFAGAに比べると全然治りやすいです。
AGAの場合ストレスや生活習慣を改善することで、進行が遅くなることもありますが、基本的にはストレスをなくしたからと言って毛が生えてくることはあまりありません。
円形脱毛症の症状と原因
円形脱毛症の症状としては、皆さんがご存知のように10円玉大の脱毛が1、2箇所に見られるような単発型が典型的な円形脱毛症の症状です。しかし、この他にも円形脱毛症の症状は多彩で、原因もストレスだけではありません。円形脱毛症の症状は下記のように分類されます。
単発型
もっとも 多く 見 られる円形脱毛症の症状で、 円形の脱毛が1,2 ヶ所 に 起きる タイプです。 円の大きさは 1cm程度 から 数cmまでさまざまで、「 ある日ここにハゲが出来てる!」と突然気づく方も多いようです。ただし、単発型の円形脱毛症のほとんどは、 治療 しなくても治る方が多いようです。
多発型
頭部の数ヶ所 ~ 数 十ヶ所に円形の脱毛が起きる症状です。単発型から進行する場合と最初から多発してつながり、広範囲に脱毛する場合があります。多発型は若ハゲ(AGA)と間違いやすく、早期に医師に相談した方が安全です。
蛇行型
後頭部や側頭部の生え際が、帯状に蛇行するように抜けてくる症状 です。こちらはAGAとは区別しやすい症状です。
全頭型
多発型が進行していき、頭髪のすべてが抜けていく場合と、びまん性(まばら)に脱毛 が進行する場合があります。びまん性は割合的には女性に起こるケースが多いようです。症状が進むと頭髪のすべてが脱落します。円形脱毛症のうち、10人に1人くらいはこのような重症になってしまう方がいます。
汎発型
髪の毛だけでなく、眉毛、ヒゲ、陰毛、ワキ毛、など身体全体の体毛が抜け落ちてしまう症状です。もっとも重症の円形脱毛症です。このように、円形脱毛症の症状は、円形に脱毛するとは限りません。
円形脱毛症の根本原因は免疫力の誤作動による「臓器 特異的自己免疫疾患」と言われる、自分の毛を異物として感知してしまい免疫により脱毛が起こってしまうのが原因です。この免疫力の誤作動が何故起こるかは未だ解明されておりません。ですから、ストレスは一つの主要因ですが、ストレスだけで円形脱毛症が起こっている訳ではありません。
近年では円形脱毛症の研究が進み、円形脱毛症も遺伝でおこる可能性もあり、アトピーの方は円形脱毛症にかかりやすいというデータもあります。アトピーも遺伝が大きな要因ですので、遺伝的に円形脱毛症になり易い方となり難い方がいるようです。
発毛サロンの広告写真には円形脱毛症の例も
AGA専門医や皮膚科医が見れば一発でわかりますが、実は、発毛サロンの広告写真で劇的に改善している方の中には、円形脱毛症の方も見受けられます。円形脱毛症の方に発毛効果があったからと言って、全く別の原因による薄毛であるAGAやFAGAで発毛効果があるわけではありませんので、誤解の元になります。
円形脱毛症かAGAかは、専門の医者がみればすぐわかります。それにより治療方法が変わってきますので、薄毛による不安があるかたは、クリニックに受診されることをおすすめします。
AGAと円形脱毛症以外の薄毛&若ハゲの原因
上で紹介した、AGA(男性型脱毛症)と円形脱毛症以外にも、薄毛や若ハゲの原因や症状があります。特に女性はホルモンバランスが崩れやすく、抜け毛(脱毛)や枝毛が起こりやすいようです。ここでは、AGAと円形脱毛症以外の薄毛&若ハゲの原因について、男女別に解説します。
男性のAGAと円形脱毛症以外の薄毛&若ハゲの原因
男性の場合、若ハゲや若年層の薄毛は男性型脱毛症(AGA)のケースが多いようです。しかし、上でも紹介したように円形脱毛症の可能性もありますので、悲観したり自己判断せず、まずは医師に相談しましょう。その他の若年男性におこりうる脱毛症は下記になります。
脂漏性脱毛症
いわゆるフケ症の方や顔がテカテカの脂性の男性におこりやすい脱毛症です。皮脂の分泌が多いと、汚れと皮脂が混ざり、常在菌のマラセチアなのどの真菌(カビの仲間)の影響で、フケが多くなり、頭皮のターンオーバーのサイクルが乱れて脱毛が起こるケースがあります。因みに、シャンプーや育毛剤のCMで脱毛の原因は、頭皮の皮脂が悪ものにされておりますが、 AGA(若ハゲ)に皮脂はあまり関係ないと言う医師は多くいます。
女性のAGAと円形脱毛症以外の薄毛&若ハゲの原因
若年女性の場合、FAGAより円形脱毛症のケースが多いようです。また、女性は妊娠を経験するため、ホルモンバランスが微妙に変化します。このホルモンバランスの変化が抜毛や枝毛といった、頭髪が痛む原因にもなってしまいます。若年女性の脱毛症で他のケースは下記にります。
分娩後脱毛症&ピル服用による脱毛症
妊娠出産後、女性ホルモンの分泌により急激なヘアサイクルの変化が起こり、脱毛がおこるケースがあります。また、ピル服用を中止すると女性ホルモンのバランスが変化するため、分娩後脱毛症と同様のケースで脱毛が起こる可能性があります。
ダイエットによる脱毛
女性の場合、男性より筋肉が付きにくので、カロリー制限によるダイエットを行う女性が多く、極端な低カロリーや単品ダイエットで、栄養バランスが乱れて脱毛が起こるケースがあります。欧米人の細身長身モデルに憧れてダイエットする日本人女性も多いようですが、骨格の作りが違うのに、欧米人のようなスリムボディを真似したら、栄養失調で抜毛(脱毛)に繋がるかもしれません。
筆者紹介
あらなみクリニック院長 荒浪暁彦
慶應義塾大学漢方医学センター非常勤講師
著書「最強!の毛髪再生医療 – 豊かな髪と再び出会える本 – (ワニブックスPLUS新書) 」
オリコンメディカル「患者が選んだいい病院」東海四県で総合評価2位、医療水準1位に選出