現在、世界で広く行われている植毛の方法は本人の毛を移植する「自毛植毛」です。自分の毛のために拒絶反応はなく、いわば自分から自分への臓器移植のようなものです。
ドナーに使う毛は後頭部から取るのが一般的です。薄毛が進行しても後頭部の毛は太いまま残っているからです。この領域は医学的には男性ホルモンの影響を受けにくい場所といえるのです。
この後頭部の毛を薄くなった頭頂部や前頭部に移植するのですが、この作業はまさに田植え作業のようなイメージです。
良い田んぼの必要性
まず重要なことは良い田んぼを持っていることです。田んぼの状態が悪いと稲が育ちません。植毛に置き換えてみると頭皮の状態が良いことです。強い皮膚炎があったり、火傷などの痕で血流が悪かったりすると植毛がうまくいきません。そのような場合には通常より生えてくる毛が少なかったり、細い毛になったりします。
健康な頭皮と体が重要な要素です。頭皮は体の一部ですから当然ですが、糖尿病や栄養状態が悪い場合、頭皮にもその影響が出ているはずです。
苗代の準備とドナーの採取
良い田んぼが用意できたら次は良い苗を準備しなければいけません。細い小さな苗から太い良い稲は育ちません。薄毛と太い毛の境目あたりから毛をとってきますと植えてからそう時間が経たない間に薄毛に変わってしまうかもしれません。この現象はドナードミナントと呼ばれています。
毛包は移植されて場所を移動しても、もともとあった場所の性質を維持し続けているというものです。つまり将来薄くなりそうな場所からドナーをとってくると移植後に毛が細くなってしまいます。
このリスクを避けるためには前述しました後頭部の大後頭隆起が重要です。いまは太くしっかりした毛があるからといって大後頭隆起よりも上から毛をとってくることは、自毛植毛では御法度です。必ず大後頭隆起より下からドナーを採取します。
細胞の入れ替え
ドナーをとる方法は大きく分けて2つあります。1つは従来型の「ストリップ法」です。細く帯状にドナーを切り取る方法のことです。このドナーの取り方では必要な本数に合わせて、後頭部に採取する範囲をデザインします。一般的には取った後の傷を縫合してしまいますので、あまり縦幅が大きいと縫い合わせることができません。
もう1つは毛包単位採取法(FUE)です。これはパンチグラフトで出てきた円筒形のメスでドナーを毛包単位の大きさに繰り抜く方法です。1か所から密集して取らずに飛び飛びに採取することで自然にふさがる傷跡がばらけて目立たなくなるというものです。
最近ではロボットによる完全自動化の植毛も増えてきており、正確な植毛を行う技術がかなり発達してきています。
結論
自毛植毛は自分の頭の毛がある部分から少なくなっている部分に毛を移植するものです。やはり最大のメリットはもとが自分の髪の毛ですので、拒否反応を示すことがなく、なによりも安心感があるということです。現在電動式の円筒形メスがどんどん技術改良もされているため、注目が止まらない治療法なのです。
自毛以外の人工物を植毛する方法もかつては行われていましたが、頭皮による拒否反応が起き、悲惨な状態を招く可能性が高いので、絶対に行わないようご注意ください。