技術進歩が著しい発毛再生治療ですが、まだゼロからヒトの毛包再生を行う方法は確立されていません。現在中心になっているのは今ある毛を使って薄毛を解消するような再生医療です。
炎症でまったく毛がなくなってしまうような病気や、外傷などによる脱毛は別にしていわゆる薄毛とは男性型脱毛症や女性型脱毛症と呼ばれる状態であることが多いのです。
簡単に言うと、毛は毛周期の異常により毛包が小さくなり、毛がうぶげのように細くなっていきます。毛包の構造自体が完全に壊れてしまっているわけではなく、残っている毛を太くすることと休止期に入っている毛を動かすことができれば症状の改善が期待できるのです。かなり現実的な再生治療と言えます。
弱った毛包をよみがえらせる
では弱ってしまった毛包をよみがえらせるにはどうすればよいでしょうか。毛の太さや強さを決めているのは毛乳頭であると考えられています。従って、上皮系の細胞を補充するのではなく、毛乳頭を大きく強くするような方法が必要です。
直接的には毛乳頭細胞の幹細胞のように毛乳頭の細胞になりやすい細胞を直接弱った細胞に組み入れ、毛乳頭を活性化させる方法が考えられます。
間接的には毛乳頭の細胞に作用する各種の成長因子などを導入することで毛乳頭を大きくする方法があります。実際にはこの2つを組み合わせるなどの工夫をしないと効率的に薄毛は解消されないと思われます。
最先端の発毛再生治療
実は毛乳頭細胞の幹細胞を含むと考えられる結合組織鞘のカップ状の部分を使う薄毛の再生治療が海外ではすでに治験の段階に入っています。再生治療新法のもとで、日本の大手企業がこの会社と提携して技術導入を試みようとしています。
この治療では、あらかじめ患者の頭皮からいくつか毛包を採取し、高度に管理された施設でカップ部の細胞を切り出して培養します。次にうまく毛包の組織のまわりに細胞を注入できるように工夫した特殊な注射器を使って培養した細胞を患者の頭皮に戻します。
治療が効くメカニズムとしては細胞が直接毛包に取り込まれて毛包を大きくすることと、細胞から分泌される各種の増殖因子によるものの両方が想定されているようです。
マウスなどの実験でも、どのくらい注入した細胞が毛包に取り込まれるのか、細胞は生体でどの程度(量・時間ともに)成長因子を分泌するのかなど、完全に明らかにされていない部分も多い方法ではありますが、莫大なコストが予想されるヒト毛包完全再生と比較すれば、はるかに安く実施できると期待されています。
結論
毛包の生物学、特に幹細胞の生物学の理解や再生の技術開発は、この20年ほどで大幅に進歩しています。近い将来、ヒトの細胞だけで毛包の構造が再現されると考えられています。
それが安定供給、高い安全性、コストの問題などを解決していくことができれば、発毛再生治療はさらなる進化を遂げていくことは間違いありません。