髪の毛や髭、腋毛、胸毛などの体毛は男性ホルモンが影響しています。このことは多くの人がなんとなく知っていることだと思います。しかし、男性ホルモンが多いからどうなのか?少ないからどうなのか?それとも男性ホルモンの種類が関係しているのでしょうか?ここでは科学的に男性ホルモンと薄毛の関係性を見ていきたいと思います。
脱毛症の生物学
壮年性脱毛
壮年性脱毛は男性型脱毛とも呼ばれ、30代くらいからこめかみ付近の頭髪が薄くなり、やがて頭頂部・前頭部の毛髪がなくなる現象を指します。実際には毛が抜け落ちるのではなく、時間と共に徐々に毛髪の太さと長さが小さくなるので、脱毛というよりは薄毛化です。
もちろんすでに出来上がった毛髪のサイズが縮小するわけではなく、毛周期の成長期が短縮して毛髪が短いうちに伸長が止まってしまうことと、次の成長期に生えてくる毛髪の太さが細くなることによります。毛周期のサイクルが回転するたびにどんどん薄毛化していく様子はまさに「デフレスパイラル」のようです。
男性ホルモンという概念より以前からの指摘
現在では男性ホルモンの影響により壮年性脱毛が生じることがわかっていますが、驚くべきことにホルモンという概念ができるずっと以前にそのような因果関係を指摘した人がいます。古代ギリシャの哲学者アリストテレスです。彼は宦官(去勢された男性)はハゲないということから、精液を作る能力とハゲることには密接な関係があると指摘しました。精子の製造工場である睾丸は男性ホルモンの主要な生産場所でもあるので、この指摘は正しいものでした。
ハミルトンの研究
1942年にアメリカの医師ハミルトンは、精巣機能不全や思春期前後に精巣を摘出した男性54人を調べて一人も壮年性脱毛が見られないことに気づきました。精巣が正常な男性の場合は4割ほどに脱毛が見られることを考えるとその差は歴然でした。
男性ホルモンの関係性
去勢した男性に男性ホルモンの一種であるテストステロンを投与すると、ハゲる家系の場合だけ壮年性脱毛が見られることを発見しました。ここで壮年性脱毛になる家系とそうでない家系があることが確認されました。
しかしハゲるかどうかは一つの遺伝子で決まるような単純な現象ではないため、遺伝子の教科書にメンデルの法則や母性遺伝のパターンでは説明できません。また、血中の男性ホルモンが多いから壮年性脱毛になるわけではありません。男性ホルモンを受け取った後の細胞の反応に遺伝的な差があるのです。これは個人差の問題ですが、同じ一人の人間でも体の部位によってホルモンを受け取った後の細胞の反応も異なるのです。
結論
男性ホルモンが製造されない、つまり去勢された男性はハゲないという事実からも男性ホルモンが髪の毛に関係しているのは間違いありません。また、量が多いからハゲるというものではなく、遺伝的なものも関わっていることが証明されているのです。